「……ふっ」
ソファーに座って笑いを零すと、キッチンから甘い匂いをさせるサヤが「何笑ってるの?」と尋ねてくる。
「いや、あたし最初、彗のこと嫌いだったなぁと思って」
「ああ……ははっ、そうだったね。今では信じられないけど」
「彗の両親が亡くなって、サヤが哀しむのも落ち込むのも当たり前なのにさ」
「サヤがへこんでるのは彗のせいだー!ってね?」
くすくすと笑うサヤはあの頃、弟を失ってとても落ち込んでいた。それをあたしは彗のせいだと思って、ちょっと意地悪してたけど……。
「でもすぐ仲良くなったよね。凪は、面倒見いいから」
「だって彗、常にボーッとしてるんだもん。あれで同い年なんて、幼心に嘘だと思ったよ」
「あっはは! 彗は、ぼんやりしてるのがかわいいんだけどねぇ……凪のマシンガントークにおろおろしてる彗も、かわいかったなぁ……」
「ニヤニヤしてキモイ」
「ひどい!!」
こうやって、可愛げのない態度を取るようになってしまったのはどうしてなんだろう。
でも、彗の前では素直になれた。
……どこかやっぱり、お姉さん風は吹かせていたと思うけど。
彗の存在は知っていて、初めて会ったのは5歳の春。
サヤに手を引かれてやってきた彗は、全体的に色素が薄くて、サヤの後ろに隠れるようにしてあたしの前に現れた。
第一印象は、弱そう。
そして、ずるいという感情。
サヤと手を繋いでいたことも悔しくて、ボサボサだったけど、あたしの黒髪とは違う金茶の髪がとても綺麗で。
その色の隙間から見えた垂れ目がちの瞳も薄茶で、とても眠そうで、かわいいと思ったことも覚えてる。
最初こそ意地悪していたものの、口数が少ない彗を喋らせて、笑わせるのにそう時間はかからなかった。
朝から晩まで、あたしは彗といたのだから。



