僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



『何もしなくていいんだよ』


料理で怪我したり、洗濯の洗剤の量を間違えたり、掃除して何かを壊したりするたびサヤはそう言っていたけど、あたしは首を横に振って拒否した。


目にいっぱいの、涙を湛えて。


役に立ちたいと思いながら、失敗ばかりなのが悔しくて。きっとそれよりも、サヤに嫌われてしまうことが怖かった。


それが何よりも、幼いあたしにとって恐怖だったんだ。


「凪、ココア飲む?」


そんなあたしの胸の内を、サヤは気付いていたんだと思う。


失敗を繰り返していても、サヤから聞く言葉は『何もしなくていいんだよ』から、『頑張ったね』『ありがとう』に、変わっていった。


「うん、飲む」


今思えば、5歳の子供がやる家事なんて、たかが知れてると思うけど。それでもサヤは微笑んでくれたから、必要とされている、そう感じて安心できたんだ。


そして同じ頃、サヤの会社が波に乗り始めて多忙を極めた。


必ずと言っていいほど帰りは遅く、朝もゆっくりはできなくなって。いくら自分が必要とされてると安心できても、ひとりで過ごす時間はとても長くて……。


いつからか、あたしは素直にわがままを言えなくなっていた。


早く帰ってきて。
もっと一緒にいて。


そんなことを言えば、きっとサヤは困るだろうとずっと我慢していた。


どこにも吐き出せない寂しさを抱えながら、いい子のふりして下手くそな家事をやって。もうひとりで寝れるんだと、先にベッドへ入って。


本当はサヤの帰りを待ちながら、ひとり布団の中で泣いていたのを覚えてる。


そんな時突然、あたしのそばにいるようになったのが彗だった。


ちょっと話が難しくて、幼いあたしに全ては把握できなかったけど。サヤの弟の息子が、あたしと同い年だとは知っていた。