『……知った時、怒んなかったんすか?』


祠稀ははっきりと、“誰と”の関係かは言わなかったはずだ。


『中2の頃かなぁ……。怒るとかは、しなかった。できなかったって言ったほうがいいかな。ほら、俺、親バカなんだよねぇ』


そんな会話をしたと、祠稀に聞いた。


まるで雪のように、寂寞とした部屋に積もる重い重い空気。


あたしは顔を両手で覆ったまま、漏れそうな嗚咽を堪える。



「……颯輔さんは凪に愛されてるって、気付いてるんだ」


ねぇ、彗。
……間違ってる。そんなのは、間違ってるよ。


「本人に確認したわけじゃないけど、気付いてるよ。嘘が下手なんだ、颯輔さん」

「……凪、は……」


掠れるような祠稀の声と。


「気付いてるよ。自分の想いがバレてることに」


彗の淡々とした声に、とうとう嗚咽を漏らしてしまった。


「……お互い気付かないふりして、今にも崩れそうな家族ごっこ。それでもお互い、崩れないように必死なんだ。……分かる? 凪がどれだけつらいか」


――馬鹿だ。もう、嫌になる。自分が、何もできないとすぐ思ってしまう自分が。


颯輔さんが知らぬうちに。気付かぬうちに。意識してなかったけれど、それが大前提にあった。


凪がこのまま颯輔さんを想って、彗と共に堕ちていくのが怖かった。


……女として、彗が好きなあたしはそれを赦せなかったのも、ないと言ったら嘘になる。


だけど、颯輔さんが凪の想いを知っていて。凪もそれを知っていて。


お互い仮面を被って家族を続けることが、凪の幸せなのか。きっともう、そんな次元の話じゃない。


「……ふたりの気持ちが、鬱陶しかったんじゃない」


ぽつりと呟いた彗に、恐る恐る顔を上げた。涙で滲む視界に、彗の苦しそうな表情が映る。


露骨に顔を歪め、下腹部で握られた拳は、微かに震えてるように見えた。