「……お前はそれで、守ってるつもりなんだろうな。俺にしたら、馬鹿じゃねぇの?って感じだよ」
鼻で笑うと、彗が初めて怒りを滲ませた瞳を向けてきた。
バシッと叩き落された手に無反応でいると、彗はシワのついた胸元を荒っぽく直す。
「……って……んだ」
「……あ?」
「……馬鹿だと思うなら、祠稀なりの方法で守ってあげればいいよ。早坂先生みたいにサヤの身代わりになって、抱いてあげるの? それとも、本気で自分に振り向かせることができると思ってる?」
怒りなんて通り越し、目眩がして頭が痛い。
なんでコイツは、凪も、ひとつの道しかねぇんだ。
凪はサヤを忘れられない。だから彗は、一生そばにいる?
忘れられるかもしれねぇだろ。忘れさせてやれるかもしれねぇだろ。
彗が死んだら、凪はどうすんだよ。凪が死んだら、彗はどうすんだよ。
お互いに依存してるお前らがひとり残されたら、お前らに残るもんって何?
俺には絶望と、その果てしか思い浮かばない。
だったら、俺らだってそばにいるべきだろうが。
なんでそれが分からない。なんでその選択肢を、選ばないんだ。
「俺らの気も知らないで、なんでもかんでも決め付けてんのが気に食わねぇんだよ……!」
「だったらどうしろって言うんだ!」
――初めて、彗が声を荒げた。
いや、それよりも、苦しげに顔を歪ます彗に、俺も有須も目を奪われた。



