「殴りたいなら殴ればいい。避けないよ、俺」
カッと怒りで顔を赤くした俺に、彗はなおも冷静に言葉を紡ぐ。まるで機械みたいに、恐ろしいほど淡々と。
「でも凪が起きるから公園とか、外でしてもらっていい?」
拳を爪が食い込むほど握り締め、粗暴な感情を無理やり押し込める。
殴りたいわけじゃない。そう自分に言い聞かせて、彗の胸倉を掴んだ。
「祠稀っ……!」
「黙ってろ有須」
彗の胸倉を掴んで立ち上がらせた俺は、有須を見ることなくそう言った。
俺も彗も睨むでもなく、ただ相手の胸中を探るように、互いに顔を合わせる。
「……祠稀は、頼ってほしかったんでしょ。凪に助けられたから、自分も少しでも役に立ちたかった。違う?」
そうだよ。
言葉の代わりに彗の視線の奥にあるものに訴える。でも彗は、ゆるく首を振った。
それはまるで、嘲笑するように鼻で笑われたようで、胸倉を掴む手に力を込める。
「なんだよ。俺には無理だって言いてぇのか」
「……じゃあ、誓える?」
誓える?
何を。
そう聞く前に、俺は彗の決意を。それが当然なんだと言うほどに、強く射るような瞳を向けられた。
「これから一生、凪のそばにいるって。今、誓えるの?」
「……」
「見たでしょ、さっき。凪のこと、支えられる? 守ってあげられる? 他の誰よりも、凪をいちばんに考えて優先できる? どれだけ撥ね退けられても、拒絶されても、嫌われても。そばにいるのをやめないでいられるの?」
無理でしょ?
そう、言われてないのに、聞こえた気がした。
ギリリと奥歯を噛んで、俺は彗を睨みつけながら呻るような低い声を出す。



