彗の話を聞いて、何が平凡で、何が平凡じゃないかなんて、そんなことはどうでもいい。
話を聞いて、大変だったんだと思う。つらいいこともあったと思う。
だからと言って同情するわけでも、慰めてやろうとも思わない。
ただ俺は、知った上でそばにいたかった。
凪の隣にいられたら、それで。それだけで充分だったのに。
『どこにも行かないで』
誰にでも言える言葉を、言ってほしかったわけじゃない。
サヤの代わりになりたくて、凪を好きになったんじゃない。
凪はきっと今までつらかったから、人を求めた。他人の愛を、求めて、求めて。
凪の他人に差し伸べる手は、俺や、有須や……大雅や遊志、きっと彗にも差し伸べた手は、俺らのためなんかじゃない。
凪が、握り返して欲しかったんだろ。
求められたくて、ひとりになりたくなくて、愛してほしくて。
自分が幸せになるために、たくさんの人をそばに“置いた”。
「……そんなもんが、凪の幸せだっていうのかよ」
まるで理想郷だ。凪が望む、完全で平和な世界。俺たちはしょせん作られた、選ばれた住民でしかないっていうのか。
『永遠なんて望んでない。とっくに捨てたし。今のほうが……一緒にいられる1分1秒のほうが大事』
永遠も未来もいらないと言った凪は、きっとサヤだけでなく、全ての限り有る物にそう思ってるんだろ。
……そうなんだろ? 彗。
「ひとりにならねぇように、好かれるようにしてあげて。どんだけ短くても、壊れてもいいって思いながら俺らを騙して、お前はそれでいいのかよ」
彗はもう、俺と視線を合わせるのをやめていた。それでも俺は、絶対に彗から視線を逸らさない。
微妙な表情の変化ひとつさえも、見逃さないように。



