僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



彗の話を聞いて、何が平凡で、何が平凡じゃないかなんて、そんなことはどうでもいい。


話を聞いて、大変だったんだと思う。つらいいこともあったと思う。


だからと言って同情するわけでも、慰めてやろうとも思わない。


ただ俺は、知った上でそばにいたかった。


凪の隣にいられたら、それで。それだけで充分だったのに。


『どこにも行かないで』


誰にでも言える言葉を、言ってほしかったわけじゃない。


サヤの代わりになりたくて、凪を好きになったんじゃない。



凪はきっと今までつらかったから、人を求めた。他人の愛を、求めて、求めて。


凪の他人に差し伸べる手は、俺や、有須や……大雅や遊志、きっと彗にも差し伸べた手は、俺らのためなんかじゃない。


凪が、握り返して欲しかったんだろ。


求められたくて、ひとりになりたくなくて、愛してほしくて。


自分が幸せになるために、たくさんの人をそばに“置いた”。



「……そんなもんが、凪の幸せだっていうのかよ」


まるで理想郷だ。凪が望む、完全で平和な世界。俺たちはしょせん作られた、選ばれた住民でしかないっていうのか。



『永遠なんて望んでない。とっくに捨てたし。今のほうが……一緒にいられる1分1秒のほうが大事』


永遠も未来もいらないと言った凪は、きっとサヤだけでなく、全ての限り有る物にそう思ってるんだろ。


……そうなんだろ? 彗。


「ひとりにならねぇように、好かれるようにしてあげて。どんだけ短くても、壊れてもいいって思いながら俺らを騙して、お前はそれでいいのかよ」


彗はもう、俺と視線を合わせるのをやめていた。それでも俺は、絶対に彗から視線を逸らさない。


微妙な表情の変化ひとつさえも、見逃さないように。