「……分かってんだよ……お前が、俺や有須を嫌いだとか、邪魔だとか思ってなくても……俺や有須よりも、他の誰よりも凪を大事に思ってることくらい」
だからこそ、腹が立つ。
彗が、俺と有須を嫌ってるとは思わない。むしろ、信用とか信頼とか。そういう類の感情を持ってくれてるとさえ思う。
それなのに、それなのにだ。
嘘をついて俺と有須を欺いて、罪悪感をきっと感じてるんだろうに、彗はそれを口に出さない。
凪の傷がこれ以上深くならないように、大事に大事にして。俺や有須でさえも頼ろうとしない。
「お前も凪も、何がしてぇんだよ」
分からない。いや、なんとなく分かってる。でもそんなものは、聴きたくもないし知りたくもない。
もう、後戻りするには遅すぎることは分かっていたけれど。
「……俺はただ、凪の幸せを願ってるだけだよ」
彗の言葉が、鋭利な刃物に切りつけられたように、俺の胸を痛める。
――凪は……。
『あたしは、みんなと真逆な人生だよ。あたしが同居人を募集したのはただ、おじいちゃん所有のあのマンションを昔から狙ってただけで』
凪は、平凡に生きてきたからこそ。決して幸せなだけではなかった自分とは、違う考えを持ってるんだろう。そう、思った。
『……俺たちだけが特殊なわけじゃないけど。凪みたいな人もいるってことだよ』
――彗の言葉で、凪は誰であろうと困ってる奴がいたら手助けをして。どれだけ拒否しても、諦めが悪くて。差し伸べた手は握ってくれて、凪から手を放すことはしない。
凪のイメージは、そうだった。
全部、全部、嘘だった。
最初から全てが、俺と有須を欺くための虚構だった。



