「早坂先生、自分のことをサヤだって名乗った?」
ああ、そうだよ。名乗ってねぇよ、一度も。
俺らが勝手に決め付けて、話を進めて、早坂はそれに便乗しただけだ。彗も、凪も、俺らの勘違いを利用したんだろ。
「凪にとって男はみんな、サヤだけどね」
馬鹿にしやがって。
「……サヤの身代わり、って言ったほうがいいかな」
お前が、凪を好きだと言った俺に“頑張れ”と言ったのは、そう言うことか。
「ふざけんなよ、彗」
「……ふざけてないよ」
「ふざけてんじゃねぇかよ!!」
「っ祠稀!」
有須に腕を掴まれ、前に乗り出した身を引いた。俺の腕を掴む有須の両手が、小刻みに震えていたから。
「何度も聞いたよな? 何かあったんじゃねぇのかって。俺と有須は早坂がサヤだと思って……4人で話したよな? 俺と有須が必死になってた時、お前と凪は嘘つくことに必死だったのかよ!」
嘘をつかれて、騙しやがって、ふざけんなと思う。気付けなかった自分が悪いなんて、これっぽっちも思わない。
秘密はないのかと、過去に何かあったんじゃないかと。サヤは誰だと、サヤはやめろと。頼れと、俺らがいると。何度だって聞いた。何度も言った。
「……全部が全部、嘘だったわけじゃない。サヤが本当は誰かってことを伏せてただけで、俺らの会話には……」
「会話なんかどうでもいんだよ! 嘘ついて騙してた、お前等の行動を言ってんだよ俺は!」
いつの間にか、有須が俺の腕を掴んだまま、そこへ顔を埋めていた。震える肩と、押し殺された嗚咽と、生地を通して伝わる涙。
それら全てが痛みとなって俺の胸に突き刺さるのに、彗は何も、凪は少しも、申しわけなさとか罪悪感を感じなかったのかよ。



