僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「……本当の父親じゃないけど、父親になってもいい?って、一緒に暮らし始める前に、3歳の凪に聞いたんだって。……そしたら凪は、ヤダって即答したらしいよ」


ふっ、と。おかしそうに笑う彗は、すぐにまた哀しみを帯びた表情に戻る。


目を伏せた先に視たものは、凪。根拠もなしに、絶対にそうだと思った。


「サヤはサヤだもん、って。……あだ名だよ、サヤって呼び方は。颯輔さんが学生の頃、クラスに同じ名前がいたらしくて。颯輔の颯1文字で、サヤって読むんだ。それが自分の中で定着してたから、旭さんにもサヤって名乗っちゃって……凪もサヤって呼んでた」


凪は颯輔さんと暮らすことに抵抗はなく、実の父親ではないことを分かった上で、あっさりと受け入れた。


“父親”としてではなく、“父親の代わり”として。“パパ”ではなく、“サヤ”として。



そう彗が言って、俺はガシガシと頭を掻いた。


腹が立つとか、不満だとか、不快だとか。それに似た感情が、相応しくないと思える場面で急に込み上げてきたから、どうすればいいか分からなくて。


――凪の話だ。


彗の両親、颯輔さん、旭さん、その話しを経て、やっと凪の話を聞けてるってのに。なんでこんなに、嫌な気分になるんだよ。



「……凪がずっと言ってたサヤは、早坂先生のことじゃない。凪は本気で、心の底から、颯輔さんを愛してる」


ほら、まただ。


彗がさらりと真実を口にするたび、烈火の如く湧き上がる、怒りにも似た感情。


「……じゃ、じゃあ、早坂さんは……サヤさんじゃないの?」


分かり切ったことを再確認する有須に、震えながら涙声で聞く有須に、俺はこの感情の正体がなんとなく分かった。


そして、今この場面で言っていいことだと、彗の笑みを見てぼんやり思う。