「凪、凪っ」
「んー? ……うわっ! 何すんの!」
ちょんっと鼻先を突かれて、泡を付けられたんだと分かる。
「かわい~」とふざけるパパにイラッとして、パパの腕に顔を押し付けてやった。
「わー! そうやって人の服で!」
「付けるほうが悪いんですー」
「このぅっ!」
「ぎゃー! バカー!」
スポンジを向けてきたパパに奇声を上げると、リビングに戻ってきた祠稀の姿が目に入った。
「あ、祠稀。やっぱセールスの人……」
パパの泡だらけの手を掴んでいたあたしは、祠稀の後ろから出てきた人に目を見開く。
「……え ? アレ!? 緑夏ちゃん!?」
パパがすぐさま反応して、祠稀は困ったように首の後ろを掻いていた。
「あー、なんか開けたらこの人いて。……奥さんっすよね?」
「うん! ビックリしたぁー……」
そう、あたしの、ママがそこにいた。
「ごめんね、いきなり来て」
「いやいや、どうしたの! 来れないって言ってたのに!」
パパは急いで手の泡を水で流し、適当に手を拭いてからキッチンを出る。
次にあたしの目に入ったものは、大好きなブランドの紙袋だった。



