「……でもそろそろ、ホントに時間でしょ?」
有須がせっせと5人分の茶碗を片付けるのを手伝っていた彗が、ふと壁にかかる時計を見上げる。
「うーん、そうなんだよねぇ。ヤダー、仕事休みたーい!」
「大人が駄々こねんな!」
「あはは! なんか、凪がしっかり者な理由分かったかも」
そう言って笑う有須に、苦笑いを返す。
分かってくれて嬉しいような、そうじゃないような気がする。
有須が食器を持って立ち上がると、パパが「手伝うよ」と続いた。
「今日は奉仕してもらってばっかりだったから、帰る前にひとつくらいね」
座っててくださいと連発していた有須を黙らせたのは、そのひと言。あたしは溜め息をついて、腕捲りをしながら立ち上がる。
「みんなは、まったりしてて」
「凪が手伝ってくれるのー!?」
「うるさい」
にこにこ、にこにこ。嬉しそうにするパパに、思わずつられてしまう。
ふたりで皿洗いなんて、何年ぶりだろう。そんなに経ってないかもしれないけど、ひどく懐かしく感じた。
ピンポーンと呼び鈴がリビングに響き、あたしの手は一旦止まる。パパがスポンジ係で、あたしは流す係。
「誰か来たね」
「どーせ勧誘じゃないの?」
パパとそんな話をしていると、祠稀が立ち上がる。
「んじゃあ、玄関先で追っ払ってやりますかねー」
「あっははは! 何それ! 祠稀くん、たくましいんですけどっ!」
けらけら笑うパパの声は本当に楽しそう。
祠稀は廊下へと消えていき、彗と有須は誰だろうね、なんてのんびりした会話をしていた。



