「彗がいて、有須と祠稀がいて。ここにはいないけど、遊志とか大雅とか2個上の先輩もいて。チカっていう祠稀の弟もいるんだよ」
ひとりで話を進めるあたしを、彗はなんの感情も見せずに耳を澄ます。
「パパ。あたしは今、充分幸せだから。心配することなんかひとつもないよ」
困惑していた有須と祠稀は、サヤの名前を出してでも、パパを安心させたいんだとでも思ってくれればいい。
「何かあったら、ちゃんと自分の口から言うから。……ね?」
パパは何か言いたげな顔をして、つらそうな、哀しそうな顔をした。でも愛娘の願いを受け入れる。
あたしの心の奥底に有るものに気付いていながら、気付かないふりをするの。
……気付かないふりを、させてる。
「……分かったよ。もう何も言わない。凪が幸せなら、いいんだ」
「ありがとう、パパ」
こんな残酷な娘でも、愛してくれて。
その後パパは、電話で祠稀に約束していたらしいあたしの過去について触れることはなく。
何かふたりで話していたみたいだけど、パパは謝ってるようだった。祠稀もたいして気にはしてない様子で、自分で聞くとでも言っただろう。
パパが、この前祠稀と電話で話したことを彗に言っておいてくれてよかった。
じゃなきゃ、全ての嘘が水の泡になるとこだったから。
作りあげた幸せが、崩れてしまうところだった。



