「……もしもし?」
『え? 何? この音何!?』
ドライヤーをかけたまま電話に出ると、慌てふためくパパの声。
「髪乾かしてるんだけど」
『え? 何? ドライヤー!? 止めようよ!』
「ウザい」
『え? ごめん、聞こえない。き、聞こえてないから……ほんと』
「ふぅん、歳だね」
『なぁーぎぃー! ドライヤーやめなさい!』
カチッと止めると、パパは溜め息をつく。いつからそんな子になったんだとでも言いたげ。
「何、もう着くの?」
『ん、そう! もうそろそろ着くよー』
4時過ぎ頃かな。そう言ったパパにあたしは自分の髪を触って、あとは自然乾燥でいいかと思う。
『ねぇねぇ、みんなそろってる?』
「みんな? ……ああ、いるよ全員」
『うっそ楽しみー!』
電話越しでも、キャッキャッとはしゃいでる姿が目に浮かぶ。
優しい、明るい、温厚なパパには敵なんかいないと思う。あたしにとっても、自慢のパパ。
『あ、でも凪に会うのがいちばん楽しみだよ~!』
……ウザいところは嫌いだけど。
「分かったから、さっ来てさっと帰ってね」
『そんなこと言うと、泣いちゃうんだからね』
「そうですか、じゃ、気をつけて」
『あー! 凪のバカァァア』
プツッと電話を切って、本気で泣いてそうだなと考えると笑えた。
携帯をべッドに放り投げ、あたしは軽く化粧をしてからリビングに戻る。
凪の仮面を完璧に被って、ゆらゆらと定まらない心の奥底に鍵をかけた。
――さぁ、嘘吐きの遊戯を始めよう。



