「……あたし、思うんだけどさ」
お互い服の乱れを直しながら、あたしは首筋の赤い花に手を添える。
「キスマークつけられる時に感じるって、嘘だよね」
「……まあ、ゾクゾクはするんじゃない?」
「ついでにキスでイキそうになるのも、あたしは経験ないんだけど」
「まあ、そうなったら俺は疑うけど、喜ぶ男もいるんじゃない?」
くだらない話をして、あたしは最後にローファーを履き、顔を上げると塞がれる唇。
抉じ開けられたら執拗に追いかけてくる舌に、落ち着いた息が乱れ始める。
「……イきはしなくても、熱は籠るでしょ。ここに」
そう言ってスカートの中心を押してくる変態を睨んだ。
「凪は変態だから、簡単なことじゃ感じないでしょ?」
にこっと笑うサヤに脱力して、それもそうかと納得する。
誰かと自分を比べるなんて、くだらないことはやめよう。
「送るよ」
一緒に後部座席を出ると、そう言ってくれたけれど首を振った。
「上気した顔のまま帰れないでしょ」
そう力なく笑うと、首筋の花弁を撫でられる。キスマークを付けられる時なんかよりも、腫れものにでも触るような、優しい手つきのほうに感じそうだ。
「隠すから平気だよ」
「凪、俺は本気だから」
離れた手と同時にあたしは歩き出し、キスマークを付けられる前に囁かれた言葉を思い出す。
「……嘘つくの下手だね、早坂せんせ」
顔だけ振り向いて言うと、哀しみに溢れた瞳を向けられた。
すぐ目を逸らし、逃げるように駐車場を後にする。心の中で何度も、何度も謝りながら。
『バレたらふたりで、どこか遠くへ逃げようか』



