愛してるのに、憎いって……。


「……何があったわけ?」


そう、思う。


祠稀に同意するように沈黙を続けると、彗は「朝言ってたでしょ」と言いながらリモコンを手に取り、チャンネルを変え始めた。


「凪が好きだと気付いた時にはもう、サヤには恋人がいて、そのあと結婚もしちゃったんだ。……憎いなんて言って、気持ちをごまかしてるだけだよ」

「……彗はサヤのこと、どう思ってんの」


頻繁に変わっていたテレビ画面が、音楽番組で止まる。リビングに響き出す流行りのラブソングが、今は煩わしく感じた。


「……思わせぶりな人だなぁって、感じかな」


あたしと祠稀の顔を見ないままそう言うと、彗はリモコンを置いて上半身を起こす。そのまま立ち上がった彗を見上げると、微笑んでいた。


「……俺は誰の味方でもないから、一応教えてあげる」


笑ってるのに、痛そう、苦しそう、つらそう……そんな笑みを浮かべ、彗は祠稀を見下ろして言った。


「凪は今頃……サヤに抱かれてるよ」


今日は帰ってこない。
そう付け加えて、彗は自室へと入って行った。


形容しがたい空気がリビングに充満する。静かで、穏やかに思えるのに。どこか刺々しく、冷たかった。



――あたしたちは幸せを求めていたはずで、ちゃんと幸せだと感じるのに。そんなものは、虚構だと言われてる気がした。


まるで、あたしたちに静謐は似合わないと、嘲笑ってるかのように。