突然の重力に大きな樹は軋み、まるで痛がるように紅いモミジは空に舞った。


思わず、息を呑む。


舞う椛を身にまとい、長い髪を靡かせて。


堅いコンクリートからなんの衝撃も受けてないみたいに、軽々と着地する身のこなし。


悪戯に口の端を上げる美少年は、全てを嘲笑っている気にさせる。


「……祠稀、」


また逃げて来たの?


目の前に着地した祠稀に言いかけた言葉は、学年主任の声によって掻き消された。


「戻れ日向―――っ!」


2階の窓から身を乗り出す学年主任は顔を真っ赤にして怒っている。


同時に聞こえた、下駄箱のあたりから響く荒々しい足音。


どう考えても、追手なんですけど。


「……走るのヤダ」

「がっ、頑張ろう彗っ!」


あたしが再び深い溜め息をつくと、祠稀はブルーブラックの髪を掻きあげて、ニヤリと笑った。