「……呼んで」
いつまでも黙ってるわけはないと思ったけれど、祠稀の答えは早かった。
あたしたち3人しかいない病室は物静かで、閑散としている。その空間に響いた言葉は、とても侘しかった。
その言葉の裏で、祠稀はたくさんのことを考えたんだろうか。それとも、目が覚めた時には覚悟ができていたんだろうか。
「……警察、呼んで」
ひらりと、祠稀の手から1枚の写真が落ちる。
右に左にゆっくりと、重力で落ちていく写真は、枯れた椛のようで、抜け落ちた羽根みたい。
少し床を滑って完全に停止した写真に映るのは、傷だらけのお母さんではなかった。カメラに向かって笑っている写真。
まるで、今から祠稀がすることは間違ってないと言うように。
でも、咎めてるようにも思える。
「……本当に、それでいいの?」
足音もなく現れ、写真を拾い上げた彗を、祠稀は眉を下げて見つめていた。
あたしもチカも向かい合うふたりを見つめる。祠稀が望むなら、そうしたほうがいいと思う。
望まなくても、あたしはそうしたほうがいいと思うけれど。
彗が言った言葉の裏には、きっとたくさんの想いがある。
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