「っ! ちょっ、祠稀! ダメだって!」
ベッドから降りようとした祠稀の顔が、怒りに溢れてるのに気付いて駆け寄るも、腕に触れたあたしの手は、乱暴に拒否される。
「ごめん! ほんとに待って! 彗が何か考えて……っ」
「待ってられっか! アイツは、自分のためならなんだってやるんだよ! ……っやっぱ許してなんかやらねぇ!!」
「祠稀っ!」
どれだけ拒絶されても、祠稀の体を抑え込もうとするあたしは、ひどく無力だ。
けっきょく何も、何かしても、いつもうまくいかない――…。
――パシッ!
と、気の抜けた音に、あたしも祠稀も止まる。見ると、チカが茶色い封筒を祠稀の頭に叩きつけていた。
「……じゃあ、売れる?」
「……チカ? 何、どうした」
「許せないなら、方法なんていくらでもあるんだ」
チカが封筒を布団の上に落とし、1歩後ろに下がった。あたしは祠稀を抑えていた腕を離して、祠稀は封筒に手を伸ばす。
「……何? コレ、見ろって?」
チカは何も言わずに、浮かんだ涙を拭ったみたいだった。そんなチカを見てから、祠稀は封筒に手を入れる。
祠稀が中身を出したと同時にチカが呟いた言葉は、誰もが避けたものだった。
「親を、売る覚悟はある?」



