◆Side:凪
『大丈夫だよ、大丈夫。……明日まで、待とう』
夜9時を過ぎた頃、おじさんとおばさんが消えて、彗が言った。
待てない、探しに行く。そう叫びたかったけど、その場の誰よりも落ち着いていた彗が言うなら、大丈夫だと言い聞かせた。きっと彗は、確信があってそう言ったと思うから。
彗は祠稀が目を覚ますまで待ってほしいと、先生たちも説得した。
見事な秋晴れの朝8時。あたしは昨晩からずっと、祠稀の寝顔を見ている。
「……凪」
ふいに後ろから名前を呼ばれて振り向くと、白が目立つ病室の中で人影の黒さが際立っていた。
「チカ……」
相変わらず眼深に被るフードのせいで表情は読めない。
昨日、祠稀を手分けして探しに行ったきりだったけれど、チカは明らかに疲弊していた。
あたしはパイプ椅子から立ち上がり、チカに駆け寄る。
「……昨日、彗から連絡いったよね?」
祠稀が無事だと言うことも、分かっているはずなのに。フードの上から頭を撫でると、チカは顔を上げて、見えた表情に鼓動が加速する。
「……どうしたの?」
どうして……。
「泣いてたの?」
あたしを見つめるチカの目は真っ赤で、少し腫れていた。
とりあえず話を聞こうとパイプ椅子に座るよう促すと、チカは首を振って拒んだ。



