僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「先生、退いてくださーい」

「あ、ごめんごめん」


看護師の声と共に先生の後ろから運ばれてきたのは、ベッドに寝かされた祠稀だった。頭に包帯を巻いて、瞳はもちろん開いてなかったけれど。


無事だと分かっているのに、その姿も目で確認できたのに、無性に泣きたくなった。


「すいません。通りますねー」


凪を、あたしと枢稀さんを、彗の横を通って運ばれる祠稀に、誰も声をかけなかった。目で追って、口を噤んだ。


無事でよかった。でもまだ何も解決はしてない。


「……凪、平気?」


祠稀が見えなくなると、彗はあたしの横を通り過ぎ、凪の頬を撫でに行った。その時初めて、凪が涙ぐんでいることに気付く。


「……」


胸の中に生まれた小さな嫉妬を消すように、静かに溜め息をついた。


……こんな時に何を考えてるんだろう、あたしは。


彗が凪を心配するなんて、当たり前なんだから。一々気にしてたら、きりがないよ。


そう自分に言い聞かせていると、先生が枢稀さんに手続きの話を始めた。


「じゃあ、あちらで……」

「日向さん!?」

「うわっ! ……どうしたの、ダメだよ院内走ったら」


突然角から現れたのは、看護師のひとりだった。見るからに走ってきた様子で、この場にいる全員の顔を確かめるように、辺りを眺め始める。


「日向さんがいないんです!」

「は? 何? ごめん、どっちの日向さん?」

「お母さんのほうですよ! 今、息子さんの話をしに行こうとしたら、いらっしゃらないんです!」


全身に、冷たいものが這う感覚。


「すでに息子さんのこと聞いて入れ違いかと思ったんですが、来てませんか!?」


除々に早まる鼓動が、ひとつの答えを導き出す。



―――おじさんが、連れ去った――…。