「あ、いた」
枢稀さんの目の前にしゃがみ込んで、微笑んでいたあたしの視界に、見覚えのある制服。
見上げると彗が立っていて、状況を把握してるみたいだった。
「……さっき階段でおじさんと擦れ違ったけど。あの人か、祠稀の父親って」
階段と聞いて、逃げたわけじゃないんだと安心する。それと同時に治療室のドアが開いて、先生が出てきたことで急速に焦りが募った。
それは凪も同じだったようで、出てきた先生に駆け寄ると、先生はにっこりと笑う。
「ああ、彼女さんかな? 大丈夫ですよ。頭ちょっと縫いましたけど、頭蓋骨にも脳にも、異常はありませんでしたから。暫く大事を取って入院しますけどね」
「か、彼女って……いえ、あの、ありがとうございました」
「それにしても何か騒がしかったみたいですけど、どうかなさい……あ、やっぱり弟さんかぁ!」
きょろきょろと一ヵ所に纏まっていないあたしたちの顔を見ていた先生が、枢稀さんを見て笑う。
「……えっと、俺のこと……?」
「いやいや、勝手に知ってるだけ。君、いつも決まった時間にお母さんのお見舞いに来てるでしょう。彼、日向って名字だし、お母さんに凄く似てるからそうかなって思ってたんですよ」
すっきりしたとひとり盛り上がる先生に、あたしたちは置いてけぼりだ。
でも祠稀が無事なら、よかった……。



