僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「……悪かった。自分の私利私欲ばかりに必死で……祠稀にも、謝ろう。許されるとは思わないけどな」

「……父さん」


ほっとしたような枢稀さんと違い、凪はおじさんを睨んでいた。あたしは信じるべきなのか惑い、この場凌ぎでなければいいと思った。


「どこに行くんですか」


疑ってることを隠しもしない凪の言葉に、おじさんは進めた足を止めて振り返る。


「先生のところへ。……手術の申請だよ。まだいるだろう、医者は」


凪を見ると、凪もあたしを見ていた。


信じるか、信じないか。そう伝わったけれど、凪は決心したようにおじさんを見返す。


「主治医、早坂でしょ。あたしの知り合いだから、まだいる」


嘘だったらすぐに分かる。そう言うように、凪は携帯を出して揺らす。


おじさんは「そうか」とだけ言って、再び歩き出した。


枢稀さんの横を通り過ぎて、角を曲がるおじさんを見送る。と、視界にいた枢稀さんが床に膝を付いた。


「……す、枢稀さん?」


突然のことに、あたしは駆け寄るより先に声をかけた。恐る恐る近付くと、床に小さな小さな水溜りができている。


「……よかったですね、分かってくれたみたいで」


本当はまだ少し、疑っていたけれど。枢稀さんの涙を見たら、そう言わずにはいられなかった。


枢稀さんは涙に濡れた顔を上げて、微笑む。


「まだ、祠稀に謝ってないけどね」


それでも、枢稀さんは1歩踏み出せた。きっと初めて父親に反抗して、守りたいものを口に出した。


それがどうか、おじさんに。祠稀に、伝わればいい。