一見、警察は困るから説得するという風にとれた。
けれど彗の言う説得とは、枢稀さん自身が祠稀にしてきたことを認め、その上で父親を説得して、父親も虐待を認めて謝罪をということだった。
祠稀が、今さら謝罪などいらないと言えばそれまでだけれど、償えと言ったら警察に突き出すことになる。それを枢稀さんは全て承知して、説得を選んだんだ。
「もう、同じことを繰り返すのは、何もできずに父さんの言い成りになるのは、嫌です。……母さんの手術も、させてあげてください。2年前のことも、祠稀に謝ってください」
俯きがちだった枢稀さんが、恐怖の存在でしかないんだろう父親を真っ直ぐ見て、紡いだ言葉。
拙くても言葉足らずでも、それでも必死に出したであろう枢稀さんの本音は、笑われてしまった。
「何を言いだすかと思えば! はははっ! どうしたんだ枢稀。アイツと同じように、イカレたのか? あろうことか、父親を殺そうとしたんだぞ? もうアレは、少年院にでも入れるしかないな」
――天野さん。
彗に聞いて、名前しか知らない人物を思い出してしまった。警察でありながら、裏カジノを経営してるという、ヒカリさんが亡くなった要因のひとり……。
「……ああ、そうだ。そうしよう。これで毎月アイツが戻ってこないように10万も払わずに済む。なぁ、枢稀」
「……っ」
理解を求められた枢稀さんが身を縮こませるのが分かるほど、嫌な笑顔だった。張り付くような、拭っても拭っても取れないような。
頭の中に残る、ネットリとした笑顔。
初めて会ったあたしでさえ怖いと感じるのに、枢稀さんは何十年も耐えてきたんだろうか。



