僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「……っ!」


視界の中に凪を捉えると、隣にいた枢稀さんがビクッと体を揺らし、立ち止まってしまう。


あたしも凪の怒声に足を止めてしまったけれど、状況はなんとなく分かっていた。


「クズをクズと言って何を怒るんだ? だいたい貴様には関係のないことだろう」

「関係あるわよふざけんな! 祠稀がクズならアンタはクズ以下だっつーの!」

「凪っ! 喧嘩しちゃダメ!」


祠稀のお父さんであろう人の胸倉を掴んだ凪に、あたしは慌てて止めに入る。


「有須っ……」

「……ああ、枢稀じゃないか。なぜここに……まあいい。お前、コレをどうにかしろ」

「凪だって言ってんだろクソ親父!」

「きゃー! 凪! ダメだってばっ」


あたしより身長の高い凪にしがみ付いて、なんとか止めようとできる限り力を込める。


それでもソファーに座るおじさんに掴み掛かろうとする凪の動きを止めたのは、枢稀さんの弱々しい声だった。


「また祠稀のこと……クズって言ったんですか、父さん」


僅かに首を傾け、見上げるようにこちらを見る枢稀さんは今にも消えそうで、泣きそうだった。


それは凪にも伝わったのか、あたしが回していた腕を離しても凪は動かず、枢稀さんを見つめていた。