「……っ!」
視界の中に凪を捉えると、隣にいた枢稀さんがビクッと体を揺らし、立ち止まってしまう。
あたしも凪の怒声に足を止めてしまったけれど、状況はなんとなく分かっていた。
「クズをクズと言って何を怒るんだ? だいたい貴様には関係のないことだろう」
「関係あるわよふざけんな! 祠稀がクズならアンタはクズ以下だっつーの!」
「凪っ! 喧嘩しちゃダメ!」
祠稀のお父さんであろう人の胸倉を掴んだ凪に、あたしは慌てて止めに入る。
「有須っ……」
「……ああ、枢稀じゃないか。なぜここに……まあいい。お前、コレをどうにかしろ」
「凪だって言ってんだろクソ親父!」
「きゃー! 凪! ダメだってばっ」
あたしより身長の高い凪にしがみ付いて、なんとか止めようとできる限り力を込める。
それでもソファーに座るおじさんに掴み掛かろうとする凪の動きを止めたのは、枢稀さんの弱々しい声だった。
「また祠稀のこと……クズって言ったんですか、父さん」
僅かに首を傾け、見上げるようにこちらを見る枢稀さんは今にも消えそうで、泣きそうだった。
それは凪にも伝わったのか、あたしが回していた腕を離しても凪は動かず、枢稀さんを見つめていた。



