俺自身が、ケリをつけなければ。
親父が、消えてくれなければ。
俺は一生、死ぬまでヒカリの笑顔を頭にちらつかせながら、誰にも聞こえない声で泣き叫ぶんだろう。
こんなのは間違ってる。
親父を殺して、ヒカリが戻ってくるわけじゃない。親父を殺したら、母さんにも枢稀にも迷惑をかける。チカたちにも、凪たちにも。
分かっているのに、けっきょく俺は復讐だなんだ言いながら、自分のことしか考えてないんだ。
親父が憎い。
たった、それだけの感情に翻弄されてる。
「もう、疲れた……」
……滑稽な人生を、滑稽な結末で終わらせよう。
小さな頃から父親に虐待されていた少年は、憎しみの果てに全てを放棄して、父親を殺すことにしました。
それはけっきょく自分の欲のためであり、父親となんら変わらないということを知りながら、少年は刃物を振り上げるのでした。
「めでたしめでたし、ってか?」
「やめろぉお!!」
「っ祠稀!!」
――――ああ、またかよ。
最後に鼻で笑って、親父に包丁を振り下ろした瞬間、耳に入ったのは凪の声だった。
それに気を取られた俺は親父に突き飛ばされて、手から包丁が落ちるのが分かったと同時に、角か何かに頭がぶつかった。
「祠稀……!!」
床に倒れる俺の顔を凪が覗いてる。と、思う。
目がぼやけてよく見えない。頭が割れるように痛くて、意識が定かじゃなかった。
「……泣くくらいなら、人に頼ることを覚えなさいよ!」
……ああ、俺、泣いてるのか。
なんでだ。何が、悲しいんだ。
それとも、嬉しいのか。
……分かんね。
なんかもう、ほんとに疲れた。
視界が、端から暗くなっていくのを感じながら、瞼を閉じる。それでも込み上げる涙が何を意味してるかなんて分からないまま、俺の意識は途切れた。
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