僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「何しに来たんだ……!」

「それが、半年ぶりに顔を合わせた息子に対する反応?」

「貴様など息子ではないと言ったはずだ!!」

「ああ。俺が問題起こしまくって、警察と学校に何度も呼び出し食らって、名門校の教頭であるアンタの面目丸潰れにしたこと、まだ怒ってんの?」


シンクを背にして悪びれもなく言うと、親父の顔が怒りで真っ赤に染まっていく。


俺はへらへらと笑って、両手を上げて肩を竦めて見せた。


「被害者面すんなよ。俺のほうがよっぽど怒ってるっつーの」

「何しに来たんだと聞いている!」

「母さんの手術代、出し渋ってんじゃねぇよ」


笑顔を消すと、親父は一度目を見張ってから、すぐに鼻で笑う。


「そんなことか。渋ってなどない。出すつもりがないんだ」


……本当、なんで俺はコイツを2年も生かしておいたんだろう。


「いくらかかると思ってるんだ。それになんだ? アイツに会ったのか? それで、なんて言ってた。手術したいと言ってたのか?」

「しねぇって言ってた」

「はははっ! そうだろう? 諦めろと言ったんだ。アイツは、俺に逆らえないからなっ」

「じゃあ、お前も諦めるんだな」


鼻高々に、自分の独裁っぷりを誇る親父に、俺は首を傾げて微笑んでやった。


「死ね」


ガシャンッと金属音がすると共に、俺はシンクに置きっぱなしにされていた包丁を手に取った。


刃が不気味に光るそれを見て、「ヒッ」と小さく悲鳴を上げた親父。


一直線に向かえば、親父は慌ててリビングへと逃げ出す。


俺は舌打ちをして、リビングに足を踏み入れた。