もうどれくらい、悩んだだろう。
何回、何十回、何百回考えても答えなど出なくて。
諦めて復讐だけを考えることにした俺の決意など、凪がビルの入り口に立っているのを見た時には崩れ始めた。
ああ、俺は守られてる。
2年前のあの頃のように、ヒカリが俺を守ったように、凪は俺を守りにきたんだと思った。
ヒカリの代わりに俺を止める運命なんだと告げた凪に、俺はすでに心の中で助けを求めていた。
とても小さく、小さく、泣くように。
凪なら救ってくれると、思いながら。
「お客さん、着きましたよ」
「……どうも。いくらですか」
俺は万札を1枚出して、釣りを受け取る。タクシーから降りると、高級住宅街の一角に見える半年ぶりの我が家。今から崩れ去る、親父の私利私欲で積み上げられたもの。
「ほんと俺、どうしようもねぇー……」
ごめん。ごめんな、ヒカリ。
ごめん、凪。
チカも、彗も有須も母さんも枢稀も。とにかく、ごめん。
俺はやっぱり許せないんだ。
自分の身長の2、3倍はあるだろう門を軽々と乗り越え、衝撃を和らげるには申し分ない芝生を踏みしめた。
鍵のかかっていなかった玄関に入り、脱ぎっぱなしのだらしない革靴を見れば親父がいると分かる。そのままリビングへと向かって、ドアを開けた。
「遅いぞ枢稀! いったい何し……て……」
ソファーにもたれて新聞を読んでいた親父が、俺の顔を見るなり新聞をカーペットの上に落とした。
「よぉ」
言葉が出ないのか、目を見開くだけの親父を横目に、キッチンへと向かう。冷蔵庫を開けるとビールしかなくて、すぐにドアを閉めた。
それと同時に、親父独特の荒々しい足音が背後から聞こえる。



