「……今、“しない”って言ったか?」
“できない”んじゃなくて、しないのか?
母さんは微笑む。何もかも受け入れたように、自分の罪を、清算するかのように。
「……親父か」
低く重く絞り出すように呟くと、湧き上がる、怒り。
でも荒々しい怒りはすぐに静まり、俺は凪に視線を向ける。明らかに困惑した表情の凪に少し笑って、口を開く。
「なぁ、凪。お前はさ、性格も伝えようとする言葉も、ヒカリとよく似てる」
「……なに、いきなり……っ待って祠稀!」
1歩も動いてないのに、凪は焦ったように俺の腕を掴んでくる。
俺が言おうとしてることが分かったのか、それとも感覚的にまずいと察知したのか。
どちらにしてもさすが凪だと思うけど、俺はただ微笑んだ。母さんと、同じように。
「お前なら、チカたちを救えるよ」
目を見開く凪に、俺は眉を下げた。胸の奥では沸々と煮えたぎる怒りが、静かに静かに、憎しみを呼び起こす。
「ワリィ。せっかく母さんのところに連れて来てくれたのに」
グッと、爪が食い込むほど腕を掴んでくる凪の肩に手を置く。
「ダメ、ダメだよ祠稀! どこに行く気なのっ!」
「……俺はけっきょく、憎むことはやめられない」
「しっ……!」
凪の左肩を強く押して、よろけた凪の背中を思い切り突き飛ばした。
母さんのベッドに倒れた凪を見てから、一目散に走り出す。
「祠稀!!」
凪の声が聞こえたけれど、止まることなく走り続けた。



