僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



エレベータはすんなり目的の階に着いたらしく、俺は小さい子供みたいに凪の1歩うしろを歩いた。


だけど凪が足を止め、見上げた先に“日向”というプレートが目に入った瞬間、逃げ出したくなった。


「……っ……は、……」


体が震える。
背中に玉のような汗が伝う。
呼吸が、うまくできない。


―――嫌だ。

嫌だ、逢いたくない。


こんな感情は、捨てたはずなのに。いらないから、捨てたのに。


湧き上がる後悔と罪悪感が、そんなことはありえないと言っている。


俺は、思い出さないようにしていただけで、家族を捨てられたわけじゃないことなんか分かっているのに。


どうしても否定したい。消したい、捨てたい。こんな感情は、どこか遠くへ。


逢いたくないんじゃない。逢えないんだ。


だって――…。


ガラリと突然開いたドア。吐き気を我慢するために口を覆っていた俺の視界に、赤い髪が靡く。


血……そう思う前に、凪が振り向いていた。


笑いもせず、怒りもせず。逃げたいと思う俺の気持ちを消し飛ばすほど、真摯な瞳で俺を見ていた。


凪と見つめ合った時間は1秒か、1分か分からないけど。とても早く、でもとても長く感じた。


凪が病室に足を進めるのと同時に、俺も俯きながら確実に前へ進む。


体中に、半年ぶりの母さんの視線を感じながら。