「怖いですか? 父親が。それとも2年前と同じように、あなたと父親が祠稀にした虐待の数々を知る人間が現れたことのほうが怖い?」
「……、」
俯く枢稀さんの肩を思い切り突き飛ばした。ドサッと地面に尻もちをついた枢稀さんは俺を見上げてくる。
恐怖に染まって、今にも泣き出しそうなことなど、俺にはどうでもよかった。
枢稀さんを見下ろして、俺は人差し指と中指を立てる。
「選んでください、今すぐ」
二者択一。
どちらにしても枢稀さんにとっては恐怖でしかなかっただろうけど、それでも選ばせた。
ごまかさず、逃げもしない枢稀さんも限界なんだと感じていたから。
枢稀さん自身も、分かってるんだ。枢稀という父親の犬である前に、枢稀という祠稀の兄であることを。
逃げてばかりじゃいられないことを。心の奥底にある本音を、口に出さなければならないことを。
踏み出すことができないのならば、俺が無理やりにでも後押しすればいい。その1歩が、何よりも重要なんだ。
秋気が漂う夜空に、切り裂くような強い風が吹き抜ける。それはまるで、鳥が激しく啼いたようにも聞こえた。
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