「また祠稀を身代わりにしようって言うんですか。母親が入院して、父親の暴力が自分に向かないために?」
目の前まで詰め寄った俺を、背の高い枢稀さんが見下ろしてくる。冷や汗と、震える体が、怖いと言ってる気がした。
俺じゃない。枢稀さんを縛り付ける、父親という存在が怖くて堪らないんだ。
「……なん、で……そんなこと……」
「知ってますよ。全部、全部。2年前の今日、起きたことすら」
「誰にも言うな……!!」
「……」
グシャリと前髪を掴んで、枢稀さんはブツブツと言い出す。
「言うな、誰にも……バレたら終わる……俺の今まで積み上げて来たものが、全部……アイツがいなきゃ、俺が親父に殺される……っ!」
――可哀相だと、思った。
祠稀が散々、親父の犬だ駒だと言っていたけれど、その通りだと思ったし、被害者でもあるんだろう。
だけど祠稀にしたことが許されるわけじゃない。
自分を守るだけの傍観者は、いらない。
「今さら遅いですよ。俺と有須を含めて、いろんな人が知ってる。……祠稀にばかり気を取られ過ぎですね。どうせ、祠稀は誰にも心を開かないとでも思ってたんでしょうけど」
それが間違いだ。
誰も何も知らないまま、祠稀を連れ戻せると勘違いしていたことが、間違い。



