「してますよ。凪のお父さんにこってり怒られて、しゅんとしてました」
あたしはなるべく自然な笑顔を見せて、はっきりと嘘をついた。
それでも先生たちは優等生の部類であるあたしの言葉を疑わない。
「そうかそうか、じゃあ日向は夜抜け出してるなんてことはないな!」
「勘弁してくださいよ。停学中に家から出るのは禁じられてるのに。僕の弟はそんなに馬鹿じゃないですよ」
先生たちに囲まれるあたしの目の前に、人の良さそうな笑顔を浮かべた枢稀さんが現れた。
レンズの奥で瞳を細めるこの人が、祠稀を虐待していたなんて誰も知らないだろう。
もっとも、あたしがその事実を知っているなんて、枢稀さんこそ知る由はないんだろうけど。
「同居人の有須さんだよね? ちゃんと話したかったんだけれど、会えて嬉しいよ。弟は迷惑かけてないかな」
「あはは。枢稀先生ってシスコンですか?」
「いや、はは。祠稀は昔からやんちゃで……根はいい子なんだと思うけど」
「その通りです」
と、あたしの遮るような言葉に枢稀さんを含む先生たちが視線を送ってきたけれど、あたしは枢稀さんだけを見据えた。



