「どこに行くんだ!!」
「風呂」
言いながら階段を降りる。1階に降り立った時、慌ただしく階段を駆け下りる音。
「出るな! 部屋に戻れ!!」
……俺、今まで風呂入ってたよな? 何回かしか記憶ねぇけど、入ってただろ。
振り向くと、親父が物騒な物を持ったまま俺を見ている。
「戻れと言ってるんだ!」
親父の金きり声に、リビングから顔を出したのは母さんと枢稀だった。もの凄く久しぶりに見た気がするけど、ふたりとも顔に痣はなかった。
……そんなことはもう、どうだっていいけど。
「別に逃げようってわけじゃねぇんだからさ。風呂ぐらい、入らせろよ」
「なん……何、を……」
俺の豹変っぷりに困惑するのも無理ない。2ヵ月? 俺は、抜け殻みたいなもんだったんだから。
でももう、いいんだ。
ヒカリは戻らない。俺は死ねない。守るべきモノも、守りたいと思うモノも、俺にはもうない。
ただ、ヒカリを馬鹿にした罪も、ヒカリを貶めた罪だけは、忘れてやらない。
「ははっ! 何そんなにビビってんの? どこにも行かねぇよ、風呂には入るけど」
俺が笑ったことで、この場が、ここに在る家族というものが、凍りつく。
――どうして俺は、こんな奴らを庇ったんだろう。親父なんて、捕まればよかったのに。母さんも枢稀も、どうだっていいのに。
ヒカリより大事な存在であるはずがないのに。
どうしてヒカリが死んで、こいつ等は生きてるんだ。



