僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「あの男も馬鹿だったな。俺に楯突くから、罰が当たったんだな」


ククッと、喉を鳴らす音が耳に響いて、俺は目の前の親父を凝視した。


伸びた前髪が鼻を掠めたのに気付いたように、親父が「そうだった」と口にする。


「そのだらしない髪も、切ってやろうと思ってたんだ」


ニヤリと口の端を上げる親父の手には、妖しく光る刃物。俺の背中を幾度も斬り付けたであろう、果物ナイフだった。


「ヒカリという男に似ていて、気分が悪かったんだ。後味がいいものでもなかったしな」


……俺は、何をしていたんだろう。


「まあ自業自得だな。ヒカリというクズに何を触発されたか分からないが、もう変な気は――」


―――ゴッ!!


親父を殴った感覚が、音が、分かった。湧き上がる怒りも、クソ以下の親父を睨みつける自分のことも。

忘れていた、憎しみも。


取り戻した感覚に、俺の体なのか、心なのか分からないけれど、ビリッと電気のように震えた。


「……」


ゆらりと立ち上がった俺に親父は肩を跳ねさせる。だけどもう親父を殴ることに興味なんてなく、俺はまっすぐにドアに向かって、蹴破った。


「……な……何を……」


耳触りな親父の声を無視して、今の衝撃で緩くなった取っ手に視線を落とす。試しに力を込めてみると、呆気なく壊れた。


……なんだ、衰えてないじゃん。


何度か拳を握ったり開いたりしてから、俺は部屋から1歩出た。