――――――全部、スローモーションみたいで。全部、夢だと思いたかった。
警官の腕を振り払い、引き金を引こうとした天野を突き飛ばし、ヒカリのもとまで走ると、冷静だったヒカリが初めて表情を崩して。
「祠稀!」と、俺の名前を呼んで、抱きとめてくれたのに。次の瞬間、視界が反転して。
背中に衝撃を受け、ガシャン!と大きな音と銃の発砲音がして。
俺に覆い被さるヒカリの体と腕の間から見えたのは、銃口から煙が出てるのと、それを持って笑っていた天野が、目を見張ったこと。
木々が擦れる音と、胃に響いた不協和音。
誰かの、叫び声。
「ヒカ……リ?」
名前を呼んでも、俺に覆い被さっていたヒカリはいない。視線を横に移すと、ぽっかりと空いた、黒。
手を伸ばせばあるはずのものが、なかった。
「……あーあ。参ったな、事故死で処理かな? コレ」
「マズイですよ! 救急車……なきゃ…」
「じゃ……んで」
「……」
「…」
「 」
「 」
ヒカリ?
ヒカリは?
なんで、アレ……俺、今ヒカリに抱きとめられて。
アレ、なんで……どこ……ヒカリは、どこだよ。
……なんで、フェンスがねぇの?



