「は!? おいコラ! 祠稀っ!!」
気付く暇もなく、俺は車から飛び出しビルへと向かった。リュウの声はすぐに遠のいて、俺は裏口どころか、真正面からビルに入る。
「あ、ちょっと君!」
ひとりいた警官を押し退け、俺は階段を1段、2段と飛ばして上った。頭の中では、この出来事の全てが、全貌が、把握できていた。
『今の事態はお前のせいじゃねぇんだから』
リュウに、先に謝るべきだったかもしれない。違う、と。ごめん、と。言うべきだった。
得体の知れない不安を覚えたのは、親父の執着心でも、天野の危険性でもない。逆に、親父と天野のせいであると言ってもいい。
「はっ……はぁ……クソッ!!」
乱れる息と、重くなる足すら気にならないほどに、俺は屋上へと一気に駆け上がった。
―――バンッ!
「ヒカリ!!」
秋風が頬を撫でて、屋上から見える空の広さにゾッとする。
広さが目につくこの場所で、たったふたりの男が向かい合ってる。それが、異常に感じたから。
「はっ……はぁ……お前……っ」
乱れた髪の隙間から見える、スーツを着た男。天野は睨み上げる俺を見て、厭らしく口の端を上げた。
「ああ……いるじゃないですか。“祠稀くん”」
オールバックの髪のせいで、よく見える顔。そこにある二つの目は糸のように細く、俺はこの目をよく知っていた。



