赤マル独特の匂いが鼻を掠める。
俺はリュウの車の中から、威光のビルを遠目から見上げていた。パトカーが2台、ビルの前に停められている。
「祠稀! 頼むからもう暴れんなよ!」
リュウの声と、ユナのすすり泣く声が聞こえたけれど、俺は自分の疑問だけを口にした。
「なんで、ヒカリしか残らなかったんだよ……」
掴めはしないガラス窓の上で拳を握ると、運転席に座るリュウは嫌な沈黙を流す。それが無性に腹立たしくもあり、焦りを募らせる。
「知らねぇよ、何も」
「何っ……」
言ってるんだと、思ったのに。
振り向いた先にいたリュウは、苦悩しているように眉頭を寄せていた。
ヒカリの右腕であるリュウが、知らないわけない。それでも、本当に知らないんだと、リュウの表情が物語っていた。
「……ひとりで話したいんだとよ。多分、警察の偉い奴と1対1で話すことがあるんだろうとは思ってんだけど……ビンゴだな」
リュウの視線の先を追うと、黒のセダンが1台、ビルの前に現れた。先に着いていた警官が、車に向かって敬礼したようにも見える。
「今出て来た奴。きっとアイツに話があるんだ、ヒカリは」
車から出て来た男は紺色のスーツを着て、黒い髪はオールバックに固めていた。
顔はよく見えなかったけど、不可解なものが胸に渦巻く。



