「何を……親に向かって何をするんだ!」
振り下ろされた手を軽く避け、代わりに顔面を思い切り殴ってやると、親父は鼻血を出した。
はは、と。思わず笑いがこぼれた。
「何をって、え? 親は子供を殴っていいけど、逆はダメなの? 何それ、頭おかしいんじゃねぇの? 大丈夫デスカ?」
鼻を拭って手についた血を見てから、親父の顔は怒りで真っ赤になった。
それを面白いと、再び拳を握った俺も、充分頭がおかしいに決まってる。
でも止まらない、今日は。今日だけは。
何も考えたくなかった。
「もうやめて祠稀!!」
親父の顔が血まみれになっているのに気付いたのは、右手が枢稀に抑えられて、母さんの声を久しぶりに聞いた時だった。
俺に胸倉を掴まれてる親父は、いつ気を失ったんだろう。
だらんとする親父から手を離すと、呆気なく床に倒れた。
「お前……やりすぎだよ!」
俺の横から枢稀が出てきて、親父を階段の下まで運ぶ。枢稀と母さんに声をかけられる親父を見てから、自分の右手に視線を落とすと、赤く染まっていた。
……やりすぎ?
もう、やめて?
「――くっ、……はははははは! ……は、はぁ……なんだそれ」
俺は転がっていた荷物を肩にかけて立ち上がる。枢稀と母さんが俺を見上げるから、見下ろした。
ふたりではなく、この世で1番消えてほしい存在を。



