「闇夜の威光。本物のな」
告げた途端、男の表情は恐怖で歪む。しゃがみ込んで男の顔の前に煙草を突き出すと、限界まで目を見開かれた。
「根性焼き、してやろうか」
ユラユラと紫煙が舞う煙草はいつだって凶器にできる。そんな気は、毛頭ないけれど。
恐怖に震えるだけの男を鼻で笑い、立ち上がる。
「帰んぞ」
先に1歩踏み出すと、チカが続き他の仲間も続く。
路地裏に残されたのは無残な人間と、そいつらが持っていた鉄パイプ。少しの血痕と、吸い殻。
そんなものはどこにでも転がってるから、振り返ったりなんかしないし、片付けなんてものもしないし、すぐに忘れる。
――見飽きた。いろんなものが。
「チカ、怪我すんなって何回言ったら分かんだよ」
路地裏を出ると、カラフルな電光灯の眩しさに思わず目を細めた。
「だって不意つかれたんだもん」
「隙があっからだろーが」
「だって……」
眉を下げるチカを横目で見ながら、騒がしい人の波に鬱陶しさを感じていた。
……真っ暗な空の下、暗影が広がる街に善悪の区別なんてない。私利私欲と狂気にまみれ、誰もが皆、闇に落ちていく。ここは、そんな街。
別に珍しくもなんともない。知らない奴が、気付かない奴が多いだけで、どこにでもある街だ。



