「……さっきの倉木って男はな、お前みたいな子たちに片っ端から声かけて、薬の売人とか運び屋のバイトさせてたんだよ。で、俺らは忠告したんだ。今すぐやめろって。でも倉木はやめなかった」
リュウがそう教えてくれたけど、俺はヒカリに視線を移した。
どうしてそんなことをしてるのかが、分からなかったから。
俺と目を合わせていたヒカリは、長い睫毛の影を肌に落として、口を開く。
「……俺らはね、小さい頃、祠稀と似たような境遇だったんだよ。ここにいる全員、似たようなもん。夜出歩いて、遊んで、この街が全てだった。
でもね、俺たちが楽しく過ごしてる裏で、薬とか売春とか闇金があって。それに自ら堕ちた奴もいれば、ハメられた奴もいて。なんなんだって、ずっと思ってた」
そう話すヒカリに集中してた俺は、横切った人影に気づくのが遅れた。
ハッとするより先にヒカリの足元に座ったのは、まだ春だというのに半袖を着た小柄な女子だった。
俺と同い年か、少し上に見える。
明るい茶髪から覗く顔には、眼帯がされていた。
ヒカリの脚に伸びた手には、手首から肘の関節まで広がる、無数の切り傷があった。



