「リュウの右ストレートは痛いでしょう? 倉木さん」
「……龍が、リーダーじゃ……誰だよ、お前」
ヒュッと風の切る音が聞こえたと思ったら、倉木が壁に吹っ飛び、ヒカリは床をつま先でポンッと叩く。
……蹴っ飛ばしただけで、人ってあんなに飛ぶのかよ……。
ヒカリの外見からはとても想像できない事態に、俺はヒカリの背中を見つめた。
「そんな痛みなんて比じゃないくらい、アンタの駒にされた子たちはね、痛くて苦しかったんだよ」
両手をポケットに突っ込んで、ズルリと壁を擦り落ちる倉木を見つめるヒカリの背中は、悲しそうだった。
勝手にそう感じたのは、ヒカリの出す雰囲気がもう、怒りを纏ってなかったから。
「行こう」
俺たちのほうへ体を向けたヒカリに、弱々しい、悔しそうな低い声が投げかけられる。
「お前ら……本当に……威、光……?」
「その台詞、聞き飽きたよ」
少しだけ倉木に振り向いて言ったヒカリは、ジッポ独特の音を立てて煙草に火を点けた。
「さよなら、倉木さん」
ヒカリがそう言って、床にカードのようなものを投げると、リュウたちがドアを開ける。
耳を劈く爆音に体がビリッとした瞬間、ヒカリに肩を抱かれ、出るように促された。
「Influence of dark night」
そうヒカリは笑って、見上げている俺を気に留めず歩き出す。軽く振り向いたときにはもう、ドアは閉まっていて。ここに来た時と変わらない風景が、俺の視界に広がっていた。
ただ違ったのは、俺らがクラブを出たと同時に、サイレンを鳴らしたパトカーが横切ったことだった。



