「コレで全部? ファイルのパスワードは? 他に何か隠してねぇだろうな」
「それで全部だよっ」
パスワードか何か書いたのか、倉木は紙を差し出した。それを、携帯とパソコンをカバンに入れていた仲間の男が、奪い取る。
「こ、これでいいんだろ? もう、終わりだよな?」
まだ状況を理解していない俺なのに、なぜか倉木のホッとした様子に腹が立った。
リュウは小さく「ああ」と言って、倉木を見つめる。
「終わりだよ。務所行きだからな」
「は!? なんで……っ!」
言い終わらないうちにリュウはまた殴って、床に倒れた倉木を睨みつけた。
「初めて会った時に言ったはずだ。チャンスは、一度しかやらねぇと」
「な……ん……」
「リュウさん、そろそろ行かねぇと」
倉木が言葉にならないでいると、携帯とパソコンが入ったカバンを持つ男が、人差し指を立てて、2、3回曲げた。
「ああ、もう来る頃か。……ヒカリ」
リュウの訴えかけるような瞳に釣られて俺も隣を見ると、ヒカリは短くなった煙草を床に落とした。
そのまま倉木のもとへ向かうヒカリに、リュウを含む他の奴らも1歩下がる。



