――何もかもが一瞬だった。
ヒカリの後を追って、辿り着いたのは爆音が響くクラブ。
入口でチケットを持ってるかと聞いてきた従業員らしい奴は無視された。
踊り狂う奴らで賑わうホールを10人足らずで掻き分けて進んだ先は、多分スタッフルームで。
その奥のデスクに座って電話をしていた20代の男は、ヒカリたちを見るなり逃げ出そうとして。でも、それは叶わなくて。
向かってきた5人のスタッフたちも、今は床に倒れ込んでいた。
「お久しぶり……で、いいか? 倉木さんよぉ」
「ひ、お前っ……龍が、なんでここに!」
リュウと呼ばれたのは、屋上にヒカリを呼びにきた奴だった。
見ていた限り、1番先頭を切ってた奴。リュウは部屋の隅で怯える倉木と言うやつを見下ろしていた。
「なんで? そりゃないんじゃないの。おたく、自分がしてること忘れたわけ?」
俺は何がなんだか分からなくて、立ち尽くす。
乱闘でめちゃくちゃになった部屋。後ろのドアから響く爆音には不釣り合いなほど、この部屋は緊迫感に包まれていた。何よりも分からなかったのが、ヒカリだ。
手も出さず、口も挟まず。何もせずに、ただ俺の隣に立って、煙草を吸って見てるだけだったから。



