「こんなとこにいたの、少年」
屋上のフェンスに頬杖をついていた俺の後ろから、声をかけられる。振り向かないでいると、ガシャンと音を立て、隣にヒカリが現れた。
「楽しい?」
フェンスに寄りかかるヒカリは首だけ捻って、俺が見下ろしている下界を見やる。
ほんの小一時間前まで家よりマシだと思っていたそれは、今の俺にはつまらないものでしかなくなっていた。
「別に」
真夜中に嘘くさい灯りをつける街と、行き交う人々を眺めながらそう返すと、ヒカリはくつくつと笑う。
なんだよ、という目で見ると、ヒカリは自分の口ピを触りながら微笑んだ。
「俺はね、少年みたいな子を何回も見てきたよ」
ヒカリはセブンスターと書かれた煙草を、上着のポケットから取り出す。
ゴツい指輪が付けられた手で遊ばれるジッポは、何回も音を立てるだけで、火は灯されない。
俺はヒカリから目を逸らさずに、沢村に言われた言葉を思い出していた。
「……親から捨てられたやつを?」
嫌味を込めて言うと、ヒカリはやっと煙草に火を点けて、間を開ける。
春の風と共に流れていく紫煙を吐き出してから、ヒカリは俺を見返した。



