「あ! おい! 待てコラ!!」
俺は携帯を見ていた沢村の前から、走って立ち去った。
湧き上がる怒りは確かに感じるのに、無性に虚しく感じるのはなんでなんだ。
走って、走って、目的もなく走った。
人気の少ない場所まで来て、狭く暗い路地裏に、隠れるようにうずくまった。
ズキズキと、服が皮膚に触れる度に感じる痛み。
「……うるせぇ……」
微かに耳に入る笑い声に、両手で耳を塞いだ。
人の笑顔が嫌いだ。馬鹿にされてるようで、腹が立つから。
人の笑い声が嫌いだ。何が楽しいのか理解できなくて、虚しくなるから。
……俺の居場所は、どこなんだよ。
どこでもいい。
どこでもいいのに。
「なーに、泣いてんのぉ~?」
間延びした声に目を開けると、俺の足元に影が落ちていた。
ゆっくりと顔を上げたけれど、俺を見下ろす人影は、月明りの逆光のせいでよく見えない。



