夜11時。俺は家を飛び出したままの足で、ただ明るい場所を目指して歩いていた。
平日の夜中に制服で来たのがまずかったのか、アーケードを歩く俺を、行き交う大人たちが遠慮なしに好奇の目で見てくる。
そのうちに段々と雰囲気の違う場所に近づいて行くのは分かっていたけど、脚は止まることがなかった。
自分は何をしたいのか。そこに何を求めているのか。
分からなかったけど、家にいるよりは絶対にマシだと、根拠のない確信があった。
「……」
目の前に広がったのは、煌びやかな電光灯や、看板。楽しそうに騒ぐ、大人たち。
まだ春だというのに薄いドレスを着た女や、黒いスーツを纏って煙草を吸う男たち。若い奴もいれば、年配の奴もいた。
だけど、どいつもこいつも、幸せそうに笑っている。
「なんだぁ? お前、制服でこんなとこうろついて」
「……」
後ろから届いた声に振り向くと、グレーのスーツを着た男が俺に話しかけているようだった。



