「何? ははっ、俺に根性焼きすんの、怖かったわけ? 今さら?」
「……お前、頭おかしいよ」
そう言った枢稀を見る俺は、口の端だけ上げて、笑った。
「おかしいって、何? 何が? 俺が変だって言いたいわけ? じゃあお前らは正しいの? お前は変じゃないの? 親父は正しいの?」
「……っ触るな! 気食悪いんだよお前! なんで……なんで笑ってるんだよ!」
「はは、何? 何ビビってんだよ」
お前らのほうが、よっぽど気食悪いじゃん。なんで俺が不気味がられなきゃいけねぇの?
……つまんねぇな。全部、全部。
俺を殴る親父も、その下僕みたいな枢稀も、怯えるだけの母さんも。それを黙って受け入れる俺も。
「全部消えればいいのに」
ぽつりと呟くとリビングのドアが開いた音がする。変わった空気に顔を上げると、親父が入ってきたところだった。
「……何をしているんだ」
電話でもしてたのか、携帯を持っている親父に枢稀は「いえ、なんでもないですよ」と返す。
何が、なんでもないだよ。
俺はゆらりと立ち上がり、熱を持った肩の火傷に眉を寄せた。
コロシタイ。
コロスカチモナイ。
ジャア、ナグレバイイ。
ダメダ。
ソンナコトシタラ――……。
「お前らなんか、消えろ」
胸に渦巻く黒い感情を押し込めて、俺は家を飛び出した。
頬に流れる生温かいものに、気付かぬまま。



