勉強が嫌いなわけじゃなかった。成績が、悪かったわけでもなかった。
教師には褒められるのに、親父から与えられるのは罵声と暴力だけで。その意味が、俺には分からなかった。
ただ感じたのは、俺は、できそこないなんだと。
そんなもの、親父だけが思ってるだけだと理解していたけれど。幼い頃から言われた言葉は、そう簡単に消えるものではなかった。
街中や学校の行事で親子というものを見かけるたび、自分ほど無意味で、愛されない存在があるだろうかと、笑うしかなかった。
親父の期待は憎悪に変わり、俺の希望も憎悪に変わった。
膿のように溜まっていくそれは全てを麻痺させ、心の奥底を深く深く、黒く染め上げていく。
グッと下唇を噛んで、湧き上がる感情を押さえこんだ。
ほんの少しの間、我慢すればいい。大人になるまで。
大人になったら、こんな家出てってやる。
何もかも捨てて、全てリセットして、人生をやり直す。
口の中に広がる鉄の味、胸に渦巻く黒い感情。
月明りだけが差し込む部屋で、俺は行き場のない拳を、体の横で握り締めていた。



