真っ暗な部屋で電気も付けずに、いつから在るのか分からない本棚に、所狭しと並ぶ参考書や小難しい本に目もくれず、窓を開ける。
春の、まだ肌寒い風が、密閉されていた空間に新鮮な空気を送り込んだ。
瞼を閉じて、それを静かに吸い込んでから、ゆっくりと目を開る。
視界に広がるのは静寂な高級住宅街。耳を澄ませば、微かに聞こえる笑い声。
俺はぼんやりと空を見上げ、暗闇に浮かぶ灰色の雲と瞬く星を見つめた。
親父や兄貴に殴られて蹴られて、抵抗できる力はあるはずなのに、そうしないのは、何も変わらないと分かっていたから。
抵抗したところで、何も変わりはしない。
だからこそ、ただ黙って受け入れていた。
……親父の期待に、答えようとした時もある。頑張った、つもりだった。でも、親父は満足しなかった。
さらに、さらに、高みへと期待されることが嫌だったわけじゃないのに。
いつしかそれは重荷になり、不快になった。
どうして俺は、親父の言い成りにならなければいけないんだと。
どうして、自分の好きなように生きて、殴られ、蹴られなければいけないんだろうと。



