「っこの、クズ……!」
吐かれた毒に俺は上半身を起き上らせ、血が流れる口元を拭う。そのまま枢稀を見上げて、口の端を上げた。
「期待されてよかったじゃねえか」
そう言った瞬間、親父とは真逆の細く長い足が向かってくる。
貧弱な力。
弱い、兄貴。
「お前がバカなせいでっ……俺は大変なんだぞ……!」
小さい声で、振り絞るように、存分な憎しみを込めて言う枢稀。
……そうだよなぁ。大変だよなぁ。
死に物狂いで勉強して、日本有数の有名大学に合格したんだもんな?
俺が殴られ蹴られるたびに、誇らしげにしてるその瞳の奥で、自分はこうはなりたくないと、怯えてることを知ってるよ。
そのたび親父の忠実な犬になろうと、自分に言い聞かせてるんだよな?
大変だな。お疲れさま。頑張れよ。
せいぜい、死ぬまで親父の駒でいればいい。
俺は絶対、そうはならないけどな。
何も返さず、口の端を上げるだけの俺に舌打ちをして、枢稀は部屋に戻って行った。



